ディスレクシアの定義

ディスレクシアの新定義(IDA, 2025)

International Dyslexia Associationは、2025年にディスレクシアの定義を改訂した。以下に、その原文および訳文を提示するとともに、改訂の要点を整理する。

 

英語原文(Official Definition)

Dyslexia is a specific learning disability characterized by difficulties in word reading and/or spelling that involve accuracy, speed, or both and vary depending on the orthography. These difficulties occur along a continuum of severity and persist even with instruction that is effective for the individual’s peers. The causes of dyslexia are complex and involve combinations of genetic, neurobiological, and environmental influences that interact throughout development. Underlying difficulties with phonological and morphological processing are common but not universal, and early oral language weaknesses often foreshadow literacy challenges. Secondary consequences include reading comprehension problems and reduced reading and writing experience that can impede growth in language, knowledge, written expression, and overall academic achievement. Psychological well-being and employment opportunities also may be affected. Although identification and targeted instruction are important at any age, language and literacy support before and during the early years of education is particularly effective.

(出典:https://dyslexiaida.org/definition-of-dyslexia/

 

日本語訳(本学会による訳)

ディスレクシアとは、単語の読みおよび/または綴りに困難を示す特異的学習障害であり、その困難は正確性、速度、あるいはその両方に関わり、さらに書記体系(正書法)の特性に応じて異なる形で現れるものである。これらの困難は重症度の連続体上に存在し、同年代の学習者に対して有効とされる指導を受けてもなお持続する。

ディスレクシアの原因は多因子的であり、遺伝的要因、神経生物学的要因、環境的要因が発達の過程において相互に作用することで生じる。音韻処理および形態処理に関する基盤的な困難はしばしば認められるが、すべての事例に当てはまるわけではない。また、幼少期における口頭言語の弱さは、その後のリテラシーの困難を予測することが多い。

二次的な影響としては、読解の困難や、読み書きの経験の不足が生じ、それが言語能力、知識、書字表現、さらには全体的な学業達成の発達を阻害する可能性がある。さらに、心理的ウェルビーイングや就労機会にも影響が及ぶことがある。

ディスレクシアの同定と個別化された指導は、いずれの年齢段階においても重要であるが、とりわけ教育初期における言語およびリテラシーの支援は高い効果をもつ。

 

定義改訂のポイント

今回の改訂では、2002年の定義と比較して、音韻的処理の障害を中心とした単一要因的な捉え方から、発達・多様性・環境との相互作用を含む包括的な理解へと転換がなされた。以下では、この定義に基づき、本学会の観点からその要点を整理する。

 

1.       困難は連続体として捉えられる
読み書きの困難は「ある/ない」ではなく、程度の差として存在する(“occur along a continuum of severity”)。また、これらの困難は、とりわけ単語レベル(word-level)の読みおよび綴りにおいて顕著に現れ、同年代の学習者に有効な指導を受けてもなお持続する点に特徴がある。

2.       言語・文字体系によって現れ方が異なる
困難の現れ方は、言語の文字体系に依存する(“vary depending on the orthography”)。このことは、英語と日本語の構造的特性を踏まえた評価および指導の必要性を示すとともに、第2言語として英語を学ぶ日本語母語話者の読み書きの問題を検討する上で重要な観点となる。

3.       原因は多因子的である
遺伝的・神経生物学的・環境的要因が発達の中で相互に作用する(“interact throughout development”)。すなわち、単一の要因に還元せず、発達的過程として理解する視点が求められる。

4.       音韻処理だけでは説明されない
音韻処理や形態処理の困難は多くに見られるが、すべてではない(“common but not universal”)。学習者間の認知的特性の多様性を前提とした理解が必要となる。

5.       影響は読み書きにとどまらない
読解、学業達成、心理面や就労にも影響が及ぶ(“secondary consequences include…”)。教育的支援にとどまらず、長期的な発達や社会参加への配慮が求められる。

6.       早期支援の重要性
幼少期の口頭言語の弱さ(語彙の習得や文理解、音韻操作など)がリテラシー困難の前兆となり、言語および読み書きの両面に対する早期の支援が特に有効である(“particularly effective”)。初期段階からの包括的な言語・リテラシー支援の重要性が強調されている。

 
本改訂の意義

以上の点を踏まえると、本定義の改訂は、ディスレクシアを単一の認知的欠損として捉える従来の枠組みから、発達的・多因子的かつ環境との相互作用の中で理解する枠組みへの転換を示すものである。とりわけ、困難の連続性や文字体系依存性が明示されたことにより、言語間の差異を踏まえた評価および指導の必要性がより明確になった点に重要な意義がある。

 

本学会の立場

こうした観点から、本学会では、International Dyslexia Association(2025)の定義に示されたように、ディスレクシアを単一の要因に還元される個人内の能力の問題としてではなく、文字体系(orthography)の特性や教育環境との相互作用の中で現れる学習上の困難として理解する立場をとる。

また、読み書きの困難は連続体として存在するため、学習者を一律に区分するのではなく、その多様な実態に応じた指導の在り方を重視する。そのため、すべての学習者に対して基礎的リテラシーの指導を保障し、とりわけ音韻認識および文字と音の対応関係の習得を基盤とした教育の構築を目指すものである。

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